長野式に出会う前、治せなかった患者さんを思い返すに、一つ気になる共通点はお腹のしこりや痛みでした。当時は腹診に関してまったく知識などありませんでしたが、とにかくいつもお腹をあちこち触ってみておりました。天枢であったり、大巨であったり、関元、中カン、期門などなど、女性で自律神経失調気味の方あるいは症状や病気が重い方、芳しくない方は必ずといってよいほど腹部の圧痛がたくさんありました。当時治療しながら思っていたのは、このお腹のあちこちにある圧痛の意味(できれば西洋医学や生理学に即したもの)とその解消方法を知りたいということでした。
当時の私の腕前での均整法の治療では体型調整をしてもゆさぶりをかけても、お腹の圧痛が変化するということはありませんでした。均整法で使う微振動(指先や手のひらをお腹の圧痛に当てて小刻みに震わせる)という技術はお腹の圧痛の解消に利用するとされていますが、私の微振動では全然変化しませんでした。当時はいくらあちこち調整してもお腹の圧痛が変化することはほとんどなかったので、最後にはお腹はさわりも診もしませんでした。しかし、治らない患者さんを前に、自分の無力さと患者さんの深い失望に対面するたびに、お腹を変えればきっと患者さんの症状も変化するのではと大変悔しい思いをしておりました。
また、圧痛をとれなかったのは腹部だけではありませんでした。背中や首を始め、全身あちこちの圧痛が気になりましたが、どうやってとればよいのかさっぱりわかりませんでした。均整法の教科書などにはよく「ここをゆるめる」と書いてありますが、具体的にどういう方法があるかは書いてありません。そこで私はゆさぶってみたり、じーっと押さえてみたりと色々やってみましたが、それまで痛みのある箇所がまったく痛くなくなる、ということは一度も経験できませんでした。
そこで、私の治療における課題はまず腹部を始めとするからだ中あちこちの圧痛の意味を知ること、そしてその圧痛を解消する方法を見つけることとなりました。